大好きな阿蘇の景色は、たくさんの人の手が携わっています。
季節ごとに色を変える田畑、皆で守る牧地の野焼き、先人が植えた小国杉。
時に厳しい自然とともにある、私たちの宝物をレポートします。
熊本県菊池郡大津町にある、お茶の松岡園さん。
私、橋本と家族ぐるみでの縁あって、当館でお食事の際にお出ししているお茶はすべて松岡さんのもの。
美味しかったと、お土産にお買い求めいただくことも多い、自慢の一品です。
大津町は、当館が位置する黒川温泉よりも、熊本地震の震源から近く、
安否の確認は出来たものの、とても心配しておりました。
私自身、震災後初めて、小国郷から出て、大津町に入るなり目に入ってくるのは、
屋根にかかるブルーシート。崩れた塀。見慣れた景色が傷ついた姿に、言葉がありません。
松岡園さんにつくなり目に入ってきたのも、母屋の屋根と、立派な蔵にかかるブルーシートでした。
「茶摘は4月中旬から5/2まで。」
土間に通していただくと、きれいに片付けられていましたが、壁土も落ちてしまったことがわかりました。
ーー大変でしたね。
「益城の方と比べたら。なぁ。」といい、そして私たちの心配をしてくださいます。
なお聞くと、本震時、お母様は一階で寝ていて、タンスとタンスの隙間で奇跡的に助かったとのこと。しばらくは車中泊で過ごされたといいます。
「天井が落ちてくる思うて、恐ろしかった。よう寝れんばってん。今も二階はわちゃわちゃよ。時期も悪かったなぁ」
--時期?茶摘は?
「やった。やらんと。」
茶摘は4月の中旬から5月2日頃まで。今は体に感じる余震はほとんどありませんが、茶摘の季節は地震直後まだまだ不安定な頃でした。
「夜寝てるとな、ええ音がすっとたい。瓦が落ちるとき、風鈴みたいに。からからからから、がしゃんって。これがさみしゅうてな。」
工場も見せていただきました。
あの、不安な日々に、動いてしまった機械を整え、
壊れてしまった機械を買いなおし、朝昼は茶を摘み、深夜から工房を動かしたといいます。
その日々がなければ、私たちの今年のお茶がないと思うと、頭が下がります。
10年に一度大切なお祭りがあり、この間、800年目だったという地域の方が大切にしてきた社が
松岡さんの工房の直ぐ横に、ありました。
社は傾き、鳥居は崩れ、復興の目処は立っていないそうです。
「ここを先にせんと。」
けれど、今日も、松岡さんは、次の収穫のための剪定をしながら、納屋を修復なさっていました。
「次の作業がここであるけん。田植えもある。ここを先にせんと。」
茶畑のある風景も、食卓の風景も、こうして日々日々守ってくださっている人。
見せていただいたお茶の新芽が、未来そのもののようで、こちらが励まされてしまいました。
奥様が、お茶を淹れてくださいました。
口に含んだとたん、ぶわっとお茶の香りが広がって、いつまでも爽やかな甘みが残る。
本当に美味しくて、幸せな味。
帰り道の景色は、とても美しかったです。
私たちに出来ることは小さなことですが、
この幸せな味をお届けできることを嬉しく思います。
どうぞよろしくお願いいたします。